秘話

早実駒苫が凱旋。それぞれ熱烈な歓迎を受けたようで。斎藤君もしばらくは騒がれる日々だろうが、出来るならばそっとして上げて欲しいな。しかし「ハンカチ王子」ってwあれもいちいち三つ折りにして丁寧に汗を拭く所作が受けるのであって、無造作にゴシゴシ汗を拭ってぐしゃっとポケットにしまったらここまで話題にはなるまい。まあ、育ちの良さか、本人の性格なのか・・で、あの作業は単に汗を拭うだけじゃなく、溢れ出そうな自らの感情を抑える為でもあるそうだ。ああ見えて実はカッっとしやすい性格らしい。今までそれで打ち込まれた経験がある為に冷静な自分を保つ様にしてるんだって。クールな中にここぞという時に見せるガッツが婦女子には堪らないんでしょうなあ。


さて、その斎藤の球を受け続けた捕手の白川君。今大会、早実捕逸、暴投の記録は0。斎藤が投じた948球を1球たりとも後ろに逸らさなかった。結果的に歴代2位となる奪三振数となった投球内容で数え切れない程ワンバウンド投球もあった筈。その中でこの記録は凄い。スワローズの古田兼任監督が良い捕手の条件に、リードや肩の強さよりも「捕球技術」と言っていた事を思い出した。ストレートをミットの芯でしっかり捕って良い音を響かせて投手を良い気持ちにさせる事、ワンバウンド投球を確実に止めて「こいつなら絶対止めてくれる」と思い切り変化球を投げさせるようにする事。決勝の最初の試合、延長13回駒苫は一死満塁のチャンスでスクイズ敢行。三塁走者のスタートでそれを察知した斎藤はスライダーをワンバウンドさせ、バントを空振りさせた。その事について「白川なら捕ってくれると思った」だって。震えたね。この場面、走者はスタートしてるから、少しでも横に弾けばホームインだ。つまり止めるだけじゃなく、しっかりミットに納めなきゃダメ。この絶大なる信頼感はどうよ?果たして、捕る事は叶わなかったが、ボールを目の前に落とし、懸命の三塁に戻る走者を刺してピンチを逃れた。
去年の春に投手から転向した時は真っ直ぐすら捕れなかったとか。それからの努力は凄まじかったらしい。どんな名投手もしっかり受けてくれる捕手がいるからこそ。名投手の陰に名捕手あり。

さらにもう一つ。センバツベスト8で選手は浮ついていた。予選の初戦も9回に決勝点を挙げる辛勝。和泉監督は危機感を抱き、ある日の練習で気の無い練習をした選手のグラブを借り、自らノックを受けた。泥だらけになりながらボールに飛び込む監督の姿を見て、何も思わない選手は居ない。ここからチームの士気は一気に上がり、頂点まで登りつめた。「選手は教科書。また勉強させてもらいました」という監督もまた素晴らしかった。

一方の駒苫。香田監督は去年より体重が14㎏減っていた。去年連覇を果たした直後に部内の暴力事件が発覚し、優勝取り消しかと話題になったのは記憶に新しい。大会直前に明徳義塾に不祥事が発生し、出場辞退という事があっただけに尚更だった。新チームはそれでも全道大会、明治神宮大会と圧倒的に優勝し、センバツでも絶対の優勝候補に挙げられていた。が、卒業式の日に元部員が飲酒喫煙で補導され、出場辞退、さらに部長、監督も辞任という最悪の事態。しかし、選手は逞しかった。監督も周囲の要望で復帰し、三連覇の夢まであと一歩のところまでやって来た。そこまでの道のりはさぞ困難だっただろう。監督はずっと胃薬が絶えなかったらしい。一説には胃潰瘍の疑いもあるとか。そこまでして頑張れたのは何だろう?青森山田戦の6点差、東洋大姫路戦の4点差など、このチームが背負ってきた業に比べると小さいものだったのかも知れない。

ここにもまた「魂の物語」は存在した。そして物語はまだ続く・・